ネットフリックス(Netflix)を分析してわかる3つの秘密
Amazon prime、Hulu、U-next、Netflixとありとあらゆる動画配信サービスが世に出回るようになった。
サービス利用者の立場から、各サービスの機能面の違いなどをまとめている記事は既にいくつか出ているが、サービス提供者の観点から分析している記事はなかなか見かけなかった為、今回財務諸表をもとに思い切ってNetflixを分析してみる事にした。
利用した財務諸表
財務諸表について
財務諸表や関連記事を読み解くなかで、わかった3つのことを紹介したい。
- 初期の頃からサービス心理(需要)を掴む事に長けていた
- 過去の成功事例を柔軟に次にステップに適応する事に優れている
- 世の中のトレンドの変換点を先んじて捉えている
書き出してみると非常に抽象的な言葉ではあるものの、財務上で覗いてみとその特徴がよくわかる。分析を始める前にいくつか仮説を立ててみた。
- オリジナルコンテンツを作成していることもあり、コンテンツ制作費が嵩んでいるのではないだろうか?
- コンテンツそのものは資産計上されるのだろうか?
- 米国発のサービスということもあり、売上は米国がほとんど占めているだろう
- 月額料金でのサービス提供のため、売掛金の負担が大きいのではないだろうか
- 大容量のデーターを流しているはずなので、膨大なトラフィックをさばく為の設備が必要であろう。設備投資の割合が高いはず。
さてこれら仮説をもとに実際にSEC Filingsを解釈していく。下記図をご覧頂こう。
(※単位 百万円)
2010年から2014年までの売上/営業利益/純利益の経年推移をまとめた図になる。
売上高は順調に増加しているものの、営業利益、純利益が2011年をピークに一旦退き、立て直している。これだけではまだ傾向が見えにくいので、範囲を広げてみよう。
(※単位 百万USドル)
これは2002年から2014年までの推移をまとめた図になる。
長期的に推移を眺めていく事で、企業がどのようなスピード感、タイミングで成長しているか考察しやすい。
例えば、2010年-2011年の前年推移は他年と比べて突出しているし、直近の成長率も著しい。ここから、対象年度で例えば、新しいサービスを導入したののか、拠点を拡大したのとか要因を掴みやすい。
会社の歴史
続いて会社の歴史を追っていきたい。
Netflixの歴史
1997年にDVDのレンタル事業からスタートしたNetfilxは、1999年に月額定額制でのDVDレンタルサービスを提供。
会員数や売上がこのころから、爆発的に増え始める。同時期日本では、DMM.comが類似サービスを提供し始めている。
2000-2003年頃の収益構造を見てみると、95%以上の割合で月額制度からの収益となっている。2002年にはNasdaqに上場(創業からわずか5年!)、1株あたり15$で550万株を公開。主幹事はメルリリンチ、追加で82万株取得されている。
2007年、映像ストリーミングサービスを提供開始。
初めのサービス形態は、すでに既存有料会員が Netflixのライブラリー(データベース)にアクセスし、コンテンツを視聴できるようなものだった。
初期の頃は、既存のDVD有料会員はNo-Chargeつまり、追加コストなしでそのサービスを享受できるものだった。2008年以降着々とサービスは拡大していき、2011年になる頃にはデジタル分野での売上は10億ドルに達していた。
2013年の9月を迎える頃には、4000万人の有料会員を獲得し、現在では6000万人を超える会員数だ。さて、以下の図はキャッシュフローの内訳の推移を示す表だ。
赤線でくくっている3つの箇所に注目してほしい。
- Additions to streaming content liablities
(ストリーミングコンテンツの負債) - Amortization of streaming conctent libary
(ストリーミングコンテンツの減価償却) - Amortization of DVD content libary
(DVDコンテンツの減価償却)
ストリーミングコンテンツは無形資産として計上され、減価償却されているようだ。DVDコンテンツも同様だ。
2009年から2011年までの負債や減価償却費の推移を見て頂いてわかるようにDVDコンテンツの減価償却費は減少傾向。
代わりにストリーミングコンテンツ配信における償却費は上昇傾向にある。2007年以降、Netflixの戦略として、映像ストリーミングサービスへの事業展開を行った、財務上の変化が如実に表れてきて始めている。
2010年〜2011年にかけ、コンテンツ周りのLibility(つまり負債)がなぜ急激に増加したかのだろうか?以下推測になるが、理由をいくつか挙げてみよう。
- 市場拡大にあたり、コンテンツオーナー(TV局、映像配信会社)への還元費用もしくは利用費用が大幅に変動したのではないか?
- オリジナルコンテンツの制作費用が増加しているのではないか?
上記の株価推移を見てもわかるように、2011年以降はNetfilxにとって変動の年であることは間違いない。株価は2011年をピークに一旦下落し始めている。
大きな変動要因として、2つあげられる。
カナダ進出とDVD事業切り離しの失敗
- 2010年、カナダ市場への進出を発表。
- 2011年、DVD事業の切り離しを実施
少し古い記事かつ英文になるが、当時の背景が背景がサマライズされている。
カナダ市場への展開に関しては、コンテンツのユーザー反応が芳しくない事や、コンテンツオーナーとの仕切りに本土と勝手が違い、苦戦している様子が伺える。
DVD事業に関しては、ストリーミング配信を見るユーザーと、DVD配信を見るユーザーは異なると想定した。その結果、DVD配信事業を別会社に移管した。
これがユーザー心象を悪くし、企業価値を下げる羽目になる。最終的に移管は中止し、統合する形でサービス提供を続ける。
Libility増加に対する直接的な因果関係は見いだせていないが、カナダ市場への先行投資とそのサービス転換の影響は、株価や利益に多様な影響があったとみて間違いではないだろう。
さて、冒頭で述べた3つのことを振り返りたい。
1.初期の頃からサービス心理(需要)を掴む事に長けていた
1997年にDVDレンタル事業を開始し、翌年以降に会員制モデルを組み込んだ。今でこそ、月額制度が広く認知されていたが、当時あまりメインストリームでなかったはずであろう、月額制度を広め一気に顧客を獲得していった経緯を見ると、ユーザー心理をいかに捉えていたか物語っている。
また、2011年のDVD事業切り離しも結果失敗に終わっていたが、元は顧客の要望に柔軟に答えた方針だったという。
2.過去の成功事例を柔軟に次にステップに適応する事に優れている
DVDレンタルで急ピッチで、顧客を獲得した手法は、サービスを変え、同様に生かされている。ストリーミング配信モデルを主軸とした後でも、顧客獲得数の推移は減るどころかますます勢いをあげている。
3.世のトレンドの変換点を先んじて捉えている
創業者がどのような経緯でDVDレンタル事業を始めたかはわからないが、DVDレンタル→ ストリーミングコンテンツと転換した始めた分岐点は、まさにiphoneなどのスマートフォンが世に広まるタイミングである。
Internet上での動画配信の成長性をいち早く察知していたであろう。また2012年以降になるが、オリジナルコンテンツを発表し、いち早く競合との差別化を注力していたかの傾向がうかがえる。
データーセンター運営を含めたITインフラについても、クラウド基盤の構築に注力するなど、特有傾向が見られる。
本記事は、PLを中心に傾向を分析してみたが、B/Sを深堀りしていく事で異なる知見が見えてくるかもしれない。
また興味がわいたら続きを書きます。